元々シリーシンフォニーシリーズは試験的、実験的な要素の多いシリーズだが、特に世界初のカラー長編アニメーション映画『白雪姫』が公開のため、ディズニーでは何本かの試験的な作品が作られている。
特にその代表的な作品を4つ紹介。
90年前に作られた最初のディズニープリンセス『春の女神(The Goddess of Spring)』
『春の女神』は四季のはじまりを説いたギリシャ神話ペルセポネーとハーデースの神話をアレンジした作品で1934年11月3日に公開された。
この作品は忠実に人を描こうとした初めのディズニー映画と言える作品だったが、腕の動きがおかしかったり、顔が崩れたりと、デザイン面で見れば、よくできているとは決して言えない作品になっている。
それは当時のディズニーのアニメーションスタッフは、”人間の描写”についての経験が著しく不足していたからでもある。
これは、今知ると驚きだが、それまでのディズニー映画には、擬人化された動物や虫たちばかりで、八頭身の普通の”大人の人間”がほぼ描かれておらず、人間は常にコミカルに描き替えられた作品ばかりであった。
その経験不足を補うため、つまり人間キャラクターをテストするため、この『春の女神』の非常に重要な映画となった。
それは特に長編アニメーションの『白雪姫』の”練習用”とも言える作品で、実際この作品に携わったアニメーターの多くは『白雪姫』にも携わっている。
この約3年後に『白雪姫』が公開されることになるが、動画を見ればその差は歴然としており、ディズニースタッフの苦労がうかがい知れる。
『クッキーのカーニバル(The cookie carnival)』
『春の女神』半年後、1935年5月25日に公開されたのが『クッキーのカーニバル』でした。
この作品は、お菓子の街で、様々なクッキーが歌い踊り、「クッキークイーン」を決めるというお話で、一人の男のクッキーがきれいなドレスが無いと泣いているクッキーの女の子に出くわすし、女の子とかわいそうに思った彼は、色々なお菓子を使って彼女を綺麗に変身させて、彼女はコンテストに出場。見事クイーンに選出されるという物語。
物語は短いが悲しいヒロインが最後は幸せになる結末を迎えるという、ディズニープリンセス映画の王道が見れる名作。
作品自体もメルヘンチックで夢がある作品になっているが、物語には、初めはただのクッキーだった女の子がきれいに変身していく様や審査員がきれいな女性クッキーが登場せず失望している中、最後に美しい女性クッキーが登場し喜ぶ様子があって、ちょうど美しい女性を描こうと苦労している当時のディズニースタッフの苦労を反映しているようで面白い。
実際、半年前の「春の女神」からはかなり描写が進歩していている。
The Cookie Carnival 🍪 (1935) pic.twitter.com/swVrsrgaV0
— old toons (@oldtoons_) February 21, 2024
『三匹の親なし子ねこ(Three Orphan Kittens)』
『春の女神』は人の描写をテストされた作品だったが、この『三匹の親なし子ねこ』は約一年後の1935年10月26日に公開され、動物の細かな動きをテストする手段として使われた作品。
当時この作品は高く評価され、1935年のアカデミー賞短編映画賞を受賞している。
物語はディズニーのオリジナル作品で、ある雪の降る夜に捨てられた3匹の子猫が、ある民家に入り込み、そこで暴れまわって騒動を起こすという内容。
Animation: ???
— randomsakuga (@randomsakuga) June 8, 2021
Cartoon: Silly Symphony – Three Orphan Kittens (1935)https://t.co/B4OjSHuVnc pic.twitter.com/UMoY9ZnJ6J
途中に何度か、「トムとジェリー」でよく出てくるような、頭部を写さない黒人のメイドが表れる。
因みに、トムとジェリーの第一作目は1940年でこの作品の5年後。
またこの作品は人気があったため1935年7月28日から10月20日までの3か月間漫画での連載がされ、1936年12月19日には『いたずら子猫(More Kittens)』という続編が作られた。
『風車小屋のシンフォニー(The Old Mill)』
一度見ればすぐにわかるが、この作品は今までとは映像質が数段進歩している作品で、技術的には「マルチプレーン・カメラ」が初めて使用されたディズニー映画でした。
このカメラは既に他社のスタジオでも使用されていたが、ディズニーはより高度な「マルチプレーンカメラ」開発し1937年初頭に完成させた。
その結果、動物の描写がよりリアルになり、光の表現や風、さざ波や水しぶきなどの描写も今までになく詳細に表現されている。
一か月後に公開された『白雪姫』でも部分的にこのカメラが使用されていたが、『風車小屋のシンフォニー』が先行して1937年11月5日に公開した形となった。
マルチプレーン・カメラは、たくさんのセル画をそれぞれ異なった距離に配置し撮影することで、奥行きのある表現を生み出すことができ、ガラスに油や透明絵具で絵を描いたり、セル画に紙やすりで傷をつけるといった自作のフィルターを使用できるなど、このカメラの登場で表現できる作品の幅が大きく広がり(参照)、1940年に公開された『ピノキオ』や『ファンタジア』、1942年に公開された『バンビ』などに取り入れられた。
『風車小屋のシンフォニー』は、たくさんの動物たちが暮らす放置された古い壊れた風車とその周辺が舞台となっていて、鳥たちや生き物たちの詳細な描写に引き付けられる作品で、1937年の「アカデミー短編アニメ賞」を受賞した。
映画監督の宮崎駿はこの作品を自分の一番好きなディズニー映画だと言っている(参照)。
(が一方「ぼくはディズニーの作品がキライだ。」とも言っている。)
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