ドナルドダックの第二次大戦関連の作品には、先に紹介したドナルドダックが兵役する6作品の他にも政府の要請により制作された納税の大切さを訴える作品『新しい精神』と『43年の精神』の2作品と、ディズニーが自主的に制作した主にヒトラー政権を揶揄する反ナチス、反枢軸国作品『総統の顔』の合計3作品が存在する。
軍資金を調達するために制作された『新しい精神』と『43年の精神』
はじめの作品『新しい精神』(The New Spirit)はディズニーが初めてアメリカ政府の要請で制作した作品で1942年1月23日に公開され、続編の『43年の精神』(The Spirit of ’43)は1943年1月7日公開された。
続編の原題「The Spirit of ’43」は、アメリカ独立戦争をめぐる時代の精神として使われる「Spirit of ’76」を暗示していている。
この2作品は、第二次世界大戦の最中、多額の軍資金が必要だったアメリカで、国民への納税促進を呼びかけるために製作された作品で、アメリカ財務省の要請により制作された作品。
そのためドナルドダック・シリーズに含まれておらず著作権もアメリカ政府となっている。
映画の中で繰り返されるテーマは「税金…枢軸国を倒すために」となっていて、この映画は2600万人が鑑賞し後のギャラップ社の世論調査では、37%がこの映画が納税意欲に影響を与える要因になったと認めた。
『新しい精神』
あらすじ
国のため自由のため納税を勧めるラジオの国営放送に耳を傾けていたドナルドは、納税が銃や戦艦、民主主義、そして枢軸国を倒す為に役立っていることを知る。
ドナルドは早速納税を決意し準備を始める。
ラジオは納税の方法を丁寧に教え、その通りに書類を書き終えたドナルドは書類を封筒に入れるとポストには入れずに、カリフォルニアからワシントンまで急行するのだった。
後半は武器製造と日本軍艦の撃沈、ドイツ軍を撃退し星条旗が夕日に映し出されて終わる。
この短編映画の企画が持ち上がったとき、主人公は一般的な納税者と提案されたが、ディズニー社はドナルドダックを代わりに起用するよう財務省を説得した。
ウォルトの愛国心の強さがここで現れたのかもしれないが、その後、ディズニーは「バンビ」を除くすべてのディズニーキャラクターを参戦させることになった。
『43年の精神』
あらすじ
給料を数えながら何をしようかと思案するドナルド。
そこへスクルージ・マクダック似の年寄りのアヒルがやって来て、ドナルドに倹約と節約を説いて軍備納税を勧める。
しかしそこに別の若いアヒルが現れてドナルドを酒場に誘う。
年寄りアヒルは杖でドナルドの襟を引っ張り、両者引っ張り合いの末にドナルドドナルドは酒場に衝突。
ふと酒場に目をやると、大きなカギ十字型のスイングドアがあって、若いアヒルはヒトラーのような髪と髭になっている。
一方年寄りアヒルの背後には星条旗が。
ドナルドは納税窓口へ出向き、軍備のための税金を支払うことにした。
後半は(前作『新しい精神』と同じフィルム)武器製造と日本軍艦の撃沈、ドイツ軍を撃退し星条旗が夕日に映し出されて終わる。
『総統の顔』(Der Fuehrer’s Face)1943年1月1日公開作品
ドイツ・日本・イタリアの枢軸国をアニメで風刺したプロパガンダの要素が非常に強い作品。
その舞台となる町は『ナチランド』としてドイツとの言及はないが、アドルフ・ヒトラーの独裁政権下に置かれていた当時のドイツをイメージしていることは明らか。
本作品でドナルドは「ハイル・ヒトラー」と33回半叫ぶ。
あらすじ
冒頭、軍服を着てナチスの腕章を付けた枢軸国の指導者たち「ヨーゼフ・ゲッベルス、ハインリヒ・ヒムラー、東条英機、ヘルマン・ゲーリング、ムッソリーニ」からなるバンドが、ナチスの教義の美徳を歌いながら行進。
小さな家で寝ていたドナルドは、彼らに起こされ起床早々ヒトラー、東条英機、ムッソリーニの肖像に敬礼、軍服に着替える。
朝食には金庫に隠し持っていたコーヒーに ”ベーコンエッグの香り” という香水をかいで、恐ろしく固い配給のパンを齧る。
ドナルドは、尻を蹴られ銃剣を突き付けられながら勤務地の兵器工場へ。
工場では砲弾をフルスピードでライン生産し、総統の栄誉を称えるプロパガンダの放送を聴かされながら作業を続けていく。
しばらくして休憩となるが、素早く敬礼をする運動を強いられた後に即作業が再開。
さらに激しく作業をさせられ、ドナルドは体が震え精神に異常をきたしてしまう。
ドナルドは、ヘビや鳥の形をした砲弾、ドナルドを押しつぶす軍靴の砲弾、音楽を鳴らすマーチングバンドの砲弾などの幻覚を見て、次に気が付けばベットの上に。
すべては夢であったことを知り、アメリカ国民であることを心の底から喜ぶドナルドであった。
東条英機に敬礼のシーンは絵は東条英機になっているが音声は「Hirohito」となっている。
幻覚のシーンのアニメーションは映画『ダンボ』の酔っ払ったシーン「ピンクの象のパレード」によく似ている。
この作品は第15回アカデミー賞で短編アニメ映画賞を受賞している。
プロパガンダ作品は高評価されやすいが、ドナルドダックの映画でアカデミー賞を受賞した唯一の作品でもある。
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